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一番遠くにあるものを引き寄せてつなぐ力。
彼らはなぜ”遠いところ”と強く結びついたのか。
語られてこなかった声をどのように届けているのか。
シリア、マーシャル、マダガスカル、ウガンダ、グリーンランドとつながる5人のライフストーリー。
映画配給に携わってきた編著者が見た、世界の重なり合い。
映画の仕事にまつわるコラムも多数収録。
「いくつかの強国の関係史だけを知ることが、世界史を学ぶということではないはずです。
弱国史という仮想のジャンルは、〈聞く〉ことでスタートするでしょう。
「ほんとうは日本との関係が深い国」と認識を新たにすること、そこにも素敵な隣人たちがいると知ることが、ひとつのゴールになるでしょう。」
(もうひとつの「はじめに」ーー岡田林太郎「〈弱国史〉概論」より抜粋)
目次
はじめに
1〈優しきひとさらい〉と出会うシリア 斉藤亮平
「映画配給と私」人生に関わる映画
2〈憶えている〉環礁、マーシャル 大川史織
「映画配給と私」映画が映画館に届くまで[前編]
3 時の止まった島、マダガスカル 武末克久
「映画配給と私」映画が映画館に届くまで[後編]
4 気取らない国、ウガンダ 大平和希子
「映画配給と私」作品の本質を大切に、どう広げ深めるか
5「動物の楽園」に暮らす、北極民族 遠藤励
「映画配給と私」「映画が好き」と言えるまで
「映画配給と私」コロナ禍で気づいたミニシアターを守りたい気持ち
もうひとつの「はじめに」ーー〈弱国史〉概論 岡田林太郎
おわりに
前書きなど
完成した映画を社会に届ける大事な役割を担っているという責任感や、作品の魅力やメッセージを世の中に広げるための自分なりのアイディアや工夫を凝らすおもしろさから、私は「配給」という仕事を愛しく思ってきました。
映画だけではありません。自分が大切に思うものや守りたいものを心からの言葉で伝える人たちがいることで、初めて知ることができる世界があり、その人たちが伝えてくれるからこそ、私たちもその存在を愛しく大切に感じることができる。
伝え方は、音楽や料理であったり、はたまた写真であったり、教育やビジネスであることもあります。多様な形をとりながらも、自分の胸の中に抱いている大事なものを世界へ届け、分かち合おうとする人たちは、広義でいえば私と同じ「配給している人」なのではないかと思うのです。
本書は、そんな5人の「配給する」畏友たちの声を編んだ一冊です。日本から物理的・心理的距離が遠く、あまり知られていない国や地域のことを日本へ届け、伝えている人たちです。シリア、マーシャル、マダガスカル、ウガンダ、グリーンランドと、日本から物理的・心理的距離が遠く、世界史の教科書で名前が挙がることがほとんどない国や地域に、心を寄せ続けています。
しかもひとりで、です。もちろん仲間や協力、応援する人たちはいますが、独立した自分の意思で「配給している」人たちだと私は感じます。
そんな5人に、ライフヒストリーやそれぞれの国と出会ったきっかけ、足を運び続ける理由、日本の人にその国について知ってもらう意味などを話してもらいました。
また、5つの国や地域の歴史的背景や今現在直面している問題を見つめていくと、いわゆる「大国」や「強国」側による影響が共通して浮かび上がってくるはずです。そこから受け取ったものをどのように生かして、どんな未来をこれから創っていきたいか、あらためて考える出発点になれば嬉しく思います。
(「はじめに」より抜粋)
版元から一言
ひとり出版社・みずき書林の岡田林太郎さんからこの企画を受け継ぎ、出版部門を立ち上げました。ふたり出版社・春眠舎のはじめての本です。
もともとはドキュメンタリー映画の制作ユニットである私たちが、編著者のアーヤ藍さんと出会ったのは2016年。映画配給会社から独立したアーヤさんが「ひとり配給」として伴走してくださり、公開から月日が経っても作品を丁寧に届けることができています。
「作品の本質を大切に、どう広げ深めるか」。映画配給にまつわるアーヤさんの言葉ですが、本づくりは、これが映画以外にも共通する「配給」という営みの核心であると知る時間でもありました。
遠いところに手を伸ばすこと。小さな声に耳をすますこと。体温を感じられるままに届けること。伝える仕事をしている人・したい人、どうすれば世界とつながることができるのか悩んでいる人にも、手渡しするように届けていきたい一冊です。
著者プロフィール
アーヤ 藍 (アーヤ アイ) (編著)
1990年生まれ、長野県育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒業。在学中にアラビア語の研修で訪れたシリアが帰国直後に内戦状態になり、シリアのために何かしたいという思いから、社会問題をテーマにした映画の配給宣伝を行うユナイテッドピープル株式会社に入社。同社取締役副社長を務める。2018年に独立。「映画探検家」として、映画の配給・宣伝サポート、映画イベントの企画運営、雑誌・ウェブでのコラム執筆などを行う。アーヤはシリアでもらった名前。
斉藤 亮平 (サイトウ リョウヘイ) (著/文)
1983年東京都生まれ。国立音楽大学卒業後、青年海外協力隊でシリアへ派遣。シリア・ハマ県パレスチナ難民地区の小、中学校で音楽教師として2年間を過ごす。その後、ブータン王国の音楽学校にてピアノ教師、日本の音楽出版社勤務の後、シリア難民支援活動に従事。2017年にJIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)に入職。趣味の料理が高じて中東各地でレシピを収集、定期的に料理教室を主催。また、難民キャンプ専用バンド「ババガヌージュ」を結成し、中東各地の難民キャンプで音楽ライブを行なっている。
大川 史織 (オオカワ シオリ) (著/文)
1988年神奈川県生まれ。2016年に春眠舎を立ち上げ、プロデューサー・藤岡みなみと映画製作・配給を行う。ドキュメンタリー映画『タリナイ』(2018年)で初監督。『keememej』(2022)監督。編著書に『マーシャル、父の戦場―ある日本兵の日記をめぐる歴史実践』(みずき書林、2018年)『なぜ戦争をえがくのか―戦争を知らない表現者たちの歴史実践』(みずき書林、2021年)がある。2024年より春眠舎で出版事業をスタート。本書が初の版元本となる。
武末 克久 (タケスエ カツヒサ) (著/文)
1976年福岡県生まれ。バニラ商人。九州大学農学部卒。同修士課程修了。オックスフォードブルックス大学国際関係学修士課程修了。製薬会社の開発部門に就職するも911のテロから世の中の理不尽さを感じるようになり、妻のイギリス転勤をきっかけに退職。イギリスで国際政治経済学を学ぶ。帰国後は環境経営コンサルタントとして、企業活動に「環境」を組み込む仕事に専念。2017年に退職後、観光で訪れたマダガスカルのバニラ農園に一目惚れしてしまい、現在は、合同会社Co•En Corporationを設立し、バニラの輸入・販売を手がける。
大平 和希子 (オオヒラ ワキコ) (著/文)
1983年富山生まれ。アフリカ研究者。青年海外協力隊、教育機関勤務を経て進学。2023年に東京大学大学院より博士号(国際貢献)授与。2024年より上智大学特任助教。2016年より地元富山で暮らし「富山ゆかりの人からつながるアフリカ」をコンセプトに、遠いアフリカを身近に感じてもらえるような企画や講演会等を実施。主な論文に「慣習的な土地権利安定化に向けて伝統的権威が果たす役割̶ウガンダ西部ブニョロの事例から―」(2020)『アフリカレポート』No.58、pp.1-13、「海外サービスラーニングの持続的な学習効果―国際協力フィールドワーク(アフリカ)の実践から―」(2022)『サービスラーニングの実践と研究』第2号、pp.28-40。エッセイに「ウガンダに学ぶ」(2021)『フィールドで出会う風と人と土』第6巻、pp.153-157など。
遠藤 励 (エンドウ ツトム) (著/文)
写真家。大衆スポーツとなる以前のスノーボードの黎明期を目撃し、90年代後期から国内および世界のフリースタイルシーンに携わり、国内・北米・欧州のボードカルチャーの専門誌やメディアに作品を提供。また、2007年頃より雪にまつわる作品表現に傾倒し、「snow meditation」や「水の記憶」などの雪や氷河の作品シリーズを発表。近年は北極圏への遠征を重ね、ドキュメンタリー撮影を継続。現地で急速に進行する気候変動が及ぼす生態環境への影響、原始的民俗の変遷を記録し、作品化を続けている。長野県・大町市出身・在住。作品集に「inner focus」(小学館)、2023年12月に「MIAGGOORTOQ」をリリース。
岡田 林太郎 (オカダ リンタロウ) (著/文)
1978年岡山県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社へ入社し、編集の仕事に従事。2012年、同社社長に就任。2018年、退職。同年4月、ひとり出版社「みずき書林」創業。みずき書林での主な刊行物に、大川史織編『マーシャル、父の戦場』、岡本広毅・小宮真樹子編『いかにしてアーサー王は日本で受容されサブカルチャー界に君臨したか』、早坂暁著『この世の景色』、沖田瑞穂著『マハーバーラタ、聖性と戦闘と豊穣』、山本昭宏編『近頃なぜか岡本喜八』、大川史織編著『なぜ戦争をえがくのか』、蘭信三・小倉康嗣・今野日出晴編『なぜ戦争体験を継承するのか』、松本智秋著『旅をひとさじ』などがある。
(版元サイトより転載)
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