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『ZINEアカミミ 第二号 特集:ごきげん』

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『プルーストを読む生活』の柿内正午さんが編集長をつとめる『ZINEアカミミ』の第2号。テーマは「ごきげん」。5月の文学フリマ東京で頒布予定だったものの、中止となってしまったために急遽、デジタル版PDFとしてリリースされたものです。



僕たち夫婦はよく「ごきげん」という言葉を使う。
創刊号の巻頭にエッセイを寄せてくれた渋木すずさんと一緒に『ごきげんに生きる』と銘打ったお芝居の発表会を企画したこともある。

いつか床子さんは僕たちとサンリオ・ピューロランドにお出かけしたとき、僕らの「ごきげん」観について「性ごきげん説」だと評した。曰く、僕らの「ごきげん」は加点方式でもなければ減点方式でもなく、ただニュートラルな状態でいさえすれば人はいい機嫌でいられるという考え方なのだと。体調不良や心配事から天気や気圧の調子まで、自分にとって嫌なことから受ける影響をなるべく排したところに僕たちの「ごきげん」はある。

できるだけやりたいことをやり、なるべくやりたくないことはしない。
やりたいことだけやってやる、というのでも、やりたくないことはやらない、でもなく、可能な限り、無理のない範囲での工夫をする。どんなよさそうに見えることであれ、原理的に極端に振り切ってしまうと、それはそれで「ごきげん」は損なわれてしまうからだ。
僕たち夫婦にとって「ごきげん」は、ポケモンの「どく」や「まひ」でもなければ、スターを取ったマリオの「無敵状態」でもない、「なんでもない状態」のことなのだ。

こうして考えていくうちに、踊るうさぎさんが言った。

「ごきげん」のあとにどんな動詞が続くかがポイントなんじゃない?

「性ごきげん説」の場合は、ごきげんになるだろうか、ごきげんである、だろうか。ごきげんでいる、というのが、いちばん近いような気がする。
人によって「ごきげん」を引き受ける動詞は異なるだろう。ごきげんを守る、ごきげんを作る、ごきげんを整える……
「ごきげん」と隣接する動詞が食い違ったまま「ごきげん」は素晴らしいものだと称揚することは、場合によっては新たな抑圧や「ごきハラ(ごきげんハラスメント。我が家の造語)」でありうる。たとば「ごきげん」を守る人にとって、僕たちのようにいる人は、ただ状況に流されるがままでいる怠慢なやつらに見えるかもしれないし、僕たちからすれば、ごきげんを作るような人たちはちょっと元気がありすぎて怖いようにも感じられることもあるだろう。

皆さんは、「ごきげん」をどんな動詞で受けますか。
「ごきげん」そのものの解釈よりも、人それぞれの「ごきげん」に対する具体的な動作にこそ、一人一人を結びつけも切り離しもするようなちがいがあるのではないか。

そうであるなら、そのちがいを明らかにして、それぞれの「ごきげん」へのアプローチの工夫や矜持を面白がりたい。それぞれの健闘をなるべく行き違いのない形で称え合いたい。

一人一人の毎日の生活における「ごきげん」をめぐる試行錯誤を聴いてみたいと思っています。

発行元:零貨店アカミミ

◎目次
山岸大樹「深夜鈍足」
渋木すず「悪くなく生きる」
いちにー「くたびれた OL によるごきげんのためのルーティン」
かものはし「辿り着くまで」
水辺のヌエ「それでも、ごきげん」
川本瑠「他者をごきげんに面白がるための『マリッジ・ストーリー』論 -トリュフォー、エウリピデス、そして多部未華子を手掛かりにー」
編集部「我(と)我のごきげん」
辻本直樹「不要不急のコレクション 〜トーク・スクリプツによせて〜」
編集部「ごきげん」についてもっと考えたいときの本と映画

◎本文
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